皆さんバスケしてますか?
スポーツをしていると競技レベルを上げるためにトッププレイヤーのスキルを模倣した経験は誰しもがあると思います。
スキルを模倣するには自分の身体を思い通りに動かすための基礎トレーニングが大事なことは言うまでもありません。
その一方で目的のスキルがどういう原理で動いているか知識面で知ることも大事なトレーニングの1つです。
筆者の場合は本業がエンジニアということもありトッププレイヤーの動きを物理的に分解してスキルトレーニングに励むことがよくあります。
Twitterでも分解した内容を"スポーツと物理のお話"という内容でツイートしています。
【スポーツと物理のお話(加速減速時の接地の違い)】
— ぱらと@NSCA兼業トレーナー (@ParatoCrypto) January 14, 2020
RT元の加速と減速の接地方法の違いについて、DMで摩擦力は面積に依存しないから接地方法は関係ない、という指摘をいただきました。
この話は是非知ってほしいのでなぜこのムーブを見てフリクションマスターといえるのか物理的に解説していきます。 https://t.co/VfdIskMttJ
今回はこのツイート見たバスケットボール指導者の方からより詳しく解説した資料を作成してほしいという依頼があり、その資料を基にブログ用に再編集した内容となります。
トップ選手のスキルを解剖学や運動力学の知識がなくても感覚的に理解できるように解説していくので是非読んでみてください。
内容としてはバッシュのソールの接地方法の違いによる加速/減速のしやすさを物理的に解説し、それを実現するにはどういう動きになるのかを解説していきます。
【この記事で得られる情報】
・ソールの接地方法の違いによる加速/減速の物理的な優位性について
・実践できている選手とできていない選手の違いについて
摩擦力と圧力の関係
ソール接地方法による摩擦力変化について実際の選手を例に解説する前に摩擦力と圧力の関係について解説していきたいと思います。
物理学の内容ですが難しくならないように解説していきます、少しお堅いお話になりますがお付き合いください。
ソール接地で発生する摩擦力はストップ動作でも動き出しの動作でも基本的には静止摩擦力です。
物理的に厳密には若干擦りつつ動いて最終的に止まるという現象なので動摩擦力→静止摩擦力と働いていますが今回の解説では簡単のため全て静摩擦力として扱います。
つまり接地した瞬間接地した部分はピタッと止まると仮想します。
静止摩擦力
静止摩擦力の大きさはは静摩擦係数と垂直抗力の積で求められます。
静止摩擦力F[N]=静摩擦係数μ[-] x 垂直抗力N[N]
静摩擦係数は接する物体同士で決まり基本的には一定なので垂直抗力が大きいほど摩擦力は大きくなる計算になります。
ここでいう垂直抗力とはバッシュで垂直方向にかける力(外力)と同等です。
そのため強く踏み込むほど垂直抗力は大きくなり静止摩擦力は増加していきます。
強くバッシュを踏み込むとよりバッシュが横方向に滑りづらいことは経験的にご理解いただけると思いますが現象としては同じです。
静止摩擦力にも限界があり横方向の力が静止を保てる最大静止摩擦力よりも大きくなると静止し続けることができず滑りだします。
滑りだすと摩擦力は静止摩擦力から動摩擦力という一定の大きさの摩擦力に変わります。
実際のバスケでもバッシュが滑ることがあると思いますが滑っていてもある程度の摩擦力は感じると思います、それが動摩擦力です。
ここまでの静止摩擦力と外力の関係は上の図のように表すことができます。
つまり横方向にかかる力が静止摩擦力以下で接地していればバッシュはピタッっと止まってくれるということになります。
接地方法の違いによる摩擦力の変化
ピタッと止まるには静止摩擦力以下の横方向の力で接地する必要があるということは先ほどの解説でご理解いただけたと思います。
逆に強い垂直抗力を地面に向けてかけることで強い静止摩擦力を発揮することができると言えます。
垂直抗力は質量と重力加速度の積で計算されるので計算式でみると重たいほど良く止まるように見えます。
しかし、バッシュのソール接地においては垂直方向の荷重の大きさ=圧力の大きさと置き換えることができます。
圧力の大きさは垂直方向の荷重を接地面積で除して求めることができます。
圧力[Pa]=垂直方向の荷重[N]/接地面積[m2]
バスケにおいては垂直方向の荷重は地面を押し込む力、接地面積はソールの接地部分の面積を指します。
つまり接地する面積が少ないほど大きな静止摩擦力を発揮することができるというわけです。
このことを利用してソールの接地方法によって加速に有利な接地、減速に有利な接地を導くことができます。
加速に有利な接地
加速に有利な接地は進行方向よりも後方で接地したうえで接地面積が少ない方が良いです。
そのような接地をしようとすると自然と前足部のみが接地するような形になります。
わかりやすい画像を用意しました。
バスケをやっていて知らない方はいないMichael Jordanのドライブ時の画像ですね。
注目は右足の接地部分です、ほとんどつま先のみ接地していて接地面積が小さいことがわかりますね。
これだけ小さいと滑ってしまいそうに見えますが足指でしっかりと地面を押し込んでいるので十分な静止摩擦力が発揮されるため滑ることはありません。
そればかりか画像のように強い前傾姿勢になれることで推進方向には強力に加速できているということになり結果として鋭いドライブを繰り出すことができます。
これをフォア加速と呼んでいます。
フォア加速では前足部で強い荷重をする必要があるため強いハムストリングス~殿筋群の出力と次の動作のため前傾姿勢を起こすための強い体幹の力が必要です。
減速に有利な接地
加速とは逆に減速有利な接地はフォア加速とは違い進行方向の前方で設置したうえで接地面積が少ない方が良いです。
そのような接地をしようとすると自然と接地はソール全体を使うような接地になります。
こちらもわかりやすい画像を用意しました。
鋭いステップワークとハンドリングでコートを切り裂くKemba Walkerの画像です。
しっかりストップできていますが接地時の進行方向の力が大きいためバッシュが激しく歪んでいることがわかりますね。
フォア加速の時と異なるのはストップ時には大腿四頭筋群の出力優位で地面を押し込むため最小の接地面積と言ってもソール全体を使うような接地になっているということです。
当然静止摩擦力は接地面積が少ない方が大きくなりますが身体の前方で接地するため踵や前足部だけで接地するとバランスを崩し強く地面を荷重できず足首や膝の怪我に繋がる可能性があります。
そのため、減速時の接地はソール全体を使うのが最小接地面積となります。
ストップ時のつま先の向きは進行方向と同じ向きの場合もあれば画像のように進行方向に対して垂直に向いている場合があります。
これは直前の動作や個人の身体操作の癖によって適宜変わるためどちらが正しい、ということはありません。
静止画で見る接地方法の違い
ここまで解説した接地方法の違いによる摩擦力の違いですがこれをできている選手とできていない選手を比べると違いが見えてきます。
左がフォア加速できているKyrie Irving、右がフォア加速できていない篠山選手の画像です。
ポイントになる部分に丸でマーキングしてあります。
まずは足の接地部分、Kyrieは前足部だけ接地していてバッシュがかなり立っていますが篠山選手は前足部のみ設置しているように見えますがかなりバッシュは地面に近くなっていて地面を強く押し込める足首の角度ではないことが見て取れます。
次に膝の部分、足の接地の違いによって膝が曲がっているか曲がっていないかの違いができています。
つまり地面を押し込むだけのストロークがあるかないかの違いを見ることができます。
Kyrieには押し込む(推進する)余力があり左足の力でもっと前に進めますが篠山選手には押し込む余力がないので左足を前に出さないと進むことができません。
最後に股関節の部分、前傾をキープすることで重心を前にできより進行方向にけり出しやすくなります。
この画像では違いは大きくありませんがやはりKyrieの方が前傾しているため素早く進行方向に進むという点では有利な状態であることが言えます。
ドリブルの位置を見る限り動作の切り取ったタイミングはほぼ同じだと思うのでフォア加速できてるかできてないかでここまで外見に違いがでるというわけです。
動画見る接地方法の違い
静止画に続いて動画で接地方法の違いによる加速/減速の動きを紹介したいと思います。
まずはKyrie Irvingから。
Kyrie's back and in his bag. 🤯 pic.twitter.com/aTd9ZEUshj
— NBA (@NBA) January 12, 2020
このMoveは加速/減速/方向転換とソール接地の違いによる摩擦力の違いを遺憾なく発揮したえぐい動きです。
これを模倣しろというのは難しいですが物理的には理にかなった動きであることを見て頂ければと思います。
続いてMichael Jordanの動画を。
On this date in 1998, Michael Jordan buried the #LastShot to secure his sixth title with the @chicagobulls! pic.twitter.com/ODphPhYD42
— NBA (@NBA) June 14, 2018
NBAの歴史の中でも最も有名なクラッチショットの1つであるThe Last Shotの動画です。
この時のJordanの動きは今回解説した内容を綺麗に体現している理想的な加速/減速の動きです。
ストップジャンプシュートの動きとして模倣する価値は大いにあるので是非参考にしてみてください。
最後に静止画の比較で紹介した篠山選手の動画を。
🇯🇵The most important bucket in @JAPANBASKETBALL history 📖? #FIBAWC #ThisIsMyHouse @shinoyama7 pic.twitter.com/8jDCx1bf0K
— Basketball World Cup (@FIBAWC) June 29, 2018
こちらはフォア加速できない篠山選手とフォア加速で追いかけるオーストラリアの選手の比較が見れる良い資料です。
篠山選手が先行していたことと異常なレベルの足の回転数でなんとか逃げ切っていますがオーストラリアの選手にほぼ追いつかれてます。
そして追いかけるオーストラリアの選手はフォア加速ができているため足の回転数は篠山選手に比べると少ないです。
日本人としてはこのシーン大興奮で見ていましたが身体操作面でいうとヒヤヒヤさせられる場面でもありました。
実践するにはトレーニングが必要
今回はバッシュの接地方法の違いによる加速に有利な接地、減速に有利な接地について物理学を通して解説しました。
この記事を通して加速/減速に有利な身体操作習得の助けになれば幸いです。
当然ですが、今回解説した動きを実践するには筋力トレーニングやスキルトレーニングが必須です。
自分の今の身体の状態を把握したうえで実践できるように練習あるのみ!です。
また、十分なグリップ力のあるバッシュを履いてプレイすることも大事です。
滑るバッシュではいくらうまく接地しても意味がありませんのでキチンとバッシュは選びましょうね。
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